読者の感情を動かす 短編漫画のストーリー

短編漫画のストーリーで、読者の感情を自分の意図通りに動かせるようになるための、一見魔法のようだけれど、その実、わりと確実な方法を考察する時間

主人公の信念の表出のリフレインと圧勝のカタルシス 「ドリフターズ」を読む | 第三回

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photo by David Salafia

ドリフターズ」1巻がびっくりするぐらい面白かった事について

今回は、私がここ半年間読んだ漫画の中で、読んでいる途中で最も興奮した「ドリフターズ」を取り上げたいと思います。
私はこの作品を生徒に勧められて読んだのですが、私は作者平野耕太さんの作品を読んだ事がなく、読み出す前は、実はあまり期待もしていませんでした。しかし、読んでいる途中で「なんて無茶苦茶な漫画なんだ!」と興奮し、1巻を読み終える時には、「最高に面白い!!」という感想に変わりました。そして次の日に、書店が開くのを待って2巻・3巻を買い、近くのドトールで貪るように読みました。
早く4巻が出ないかなぁと心待ちにしています。
私は、この作品の1巻の何かしらのからくりに激しく「感情を動かされた」のだと思います。何故私が「ドリフターズ」の1巻をあんなに面白いと思い、2巻以降が読みたかったのかについて考察します。

ドリフターズ 1 (ヤングキングコミックス)

ドリフターズ 1 (ヤングキングコミックス)

 

 

第1話・第2話では感情移入していなかった

今、それ以来で「ドリフターズ」の1巻を読み直しているのですが、改めて思ったのは、私はこの作品の第1話・第2話では、まだ主人公や作品世界に感情移入していないという事です。ちなみに第1話は、関ケ原の合戦でのいわゆる島津の退き口で、戦場に取り残された主君島津義弘を逃すため、井伊直政を相手に奮戦する主人公島津豊久が瀕死の重傷を負いながら、昼休み中の「不思議な空間」にたどり着くところまでで、第2話は重傷の豊久がエルフたちの助けにより、「ドリフターズ」の根城に連れて行かれるところまでです。

 

第3話・第4話でわかる物語の構造

そんな私がこの作品を面白く感じ始めたのは第3話・第4話で、目覚めた主人公島津豊久が時空を超えて織田信長那須与一と対面する場面です。
作品は、何も知らない主人公(と読者)と、「織田信長」を名乗る男性が軽妙なやり取りをする中で、この作品の5W1Hを説明していきます(具体的には計24ページでその説明が行われます)。そして、既刊の第3巻までの主人公側のトリオが誕生します。
この作品を読み進めた読者は、おそらくまずこの場面で面白さを最初に感じたのではないかと思います。
何故面白いかと言うと、

  1. 時空を超えて、読者も名前を知っている有名人織田信長那須与一が登場する。
  2. それぞれに、登場のシーンで派手に見得を切る(この作者は見得の切り方がとても上手い)。
  3. 私たちが知っている信長の死から関ケ原の合戦までの史実を、豊久と信長の軽妙なやり取りの中で説明出来ている(私たちの知っている歴史を、信長に教えてあげるというカタルシス)。

という3つの事が短いページ数(24ページ)でとてもスムーズに行われているからです。

 

キャラクターは動いてなんぼ

さて、そのように説明されるこの作品の5W1Hですが、ここまではあくまで設定の説明であり、具体的なキャラクターの運用は、第4話の最後の「合戦のにおい」という引きからの第5話以降から始まります。
豊久を先頭に上記の3人は襲われているエルフの村に駆けつけます。3人の大立ち回りのシーンです。ここまで来ると、作品の面白さとカタルシスは加速し、3人のキャラクターの身体的な強さや好戦的で挑発的な態度と相まって物語の流れがとてもスムーズになります。
私たちが商業漫画雑誌に持ち込みに行くと、よく、編集者の方が「キャラクターがただ立って話をしているだけで面白くない」と言われる事があります。そういうニュアンスの事を言われた事がある人、あるいは、このコラムを読んで自分の作品にそういう傾向がある人は、ぜひ「ドリフターズ」のこの部分を読んで、キャラクターを動かしながら会話をさせる技術を学んでください。

 

キャラクターの信念の表出を繰り返し描く

ドリフターズ」を読み返してみた今回、私が一番勉強になったシーンはP85の1コマめ、主人公豊久が敵に対して「首置いてけ!! 首置いてけ!! なあ!!」と言うシーンです。実は、この「首置いてけ!!」というセリフは、P85が初出ではありません。先に触れた、この物語の一番最初のシーン、関ヶ原の合戦のシーンで、重傷を負わせて撤退する井伊直政に「待てぇ!! 直政!! ふざけるなよ 手前」「首置いてけ!! 首置いてけ!! 直政ぁ!!」(P19)と叫んでいます。
この後、豊久は繰り返し起こる戦の中で、「首」にこだわります。読者は、この85ページめの「首置いてけ!!」のセリフで、豊久の行動原理・信念が「敵対する武将の首を採る事だ」(とても簡潔でわかりやすい!)という事に気づきます。そして、その後繰り返される彼の「首」へのこだわりを心地よく受け入れます。

 

私たちは短編漫画の中で主人公の信念の表出を何度行っているか

今回勉強になった事は、具体的に言うと「主人公の信念の表出のリフレインは効く」という事です。この読者のみなさんの中に、1作の短編漫画の中で、主人公の信念の表出を2度以上繰り返している方がどれぐらいいるでしょうか? 私はこれまで11年間色々な漫画家志望者の原稿を見て来ましたが、そのような原稿に出会った事はありません。
「信念の表出」が大事な事は以前から知っていた事です。
宝島社に「マンガ名ゼリフ大全」というムック本があり、そこでチョイスされる名セリフを見ていると、そのほとんどがそのキャラクターの信念の表出だからです。
例えば「キャプテン翼」で翼は、「強い者が勝つんじゃないんだ。サッカーは勝った者が強いんだ!!」と叫びますし、「鋼の錬金術師」でロックベル医師は、「偽善で結構!! やらない善よりやる偽善だ!」と叫びます。
なので、生徒のみなさんには「山場でなるべくそのキャラクターに信念を叫ばせよう」と伝えて来たのですが、実はそれでは不徹底で、短編漫画と言えど、信念の表出は1作品で1度ではなく、2度・3度とリフレインさせた方が効果的かもしれません。

マンガ名ゼリフ大全 (別冊宝島―カルチャー&スポーツ (1547))

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ブレない強さ

この「ドリフターズ」という作品、この後、土方歳三ハンニバル源義経ヒトラーなどが出てきて、カオス的な作品世界になっていくのですが(これが、私が初見で持った「なんて無茶苦茶な漫画なんだ!」という感想です。)、それでも読者がリアリティを持って、感情移入して読み進められるのは、作者の平野耕太さんがこの作品世界を全くブレずに描けているからです。作品世界もブレていませんが、「首置いてけ!!」と叫ぶ主人公・島津豊久のブレなさ加減は、読んでいてとても気持ちがよいです。この強さ、特に少年漫画家志望のみなさんはマネをすると良いと思います。何故ならば、少年漫画は基本的に、読者のメインターゲットが少年なので、「わかりやすさ」と「わかりやすいカタルシス」が強く求められるからです。

 

圧勝のカタルシス

さて、主人公島津豊久と織田信長那須与一がトリオを組んで最初の戦であるこの第5話から展開される戦は、主人公たち側の圧勝に終わります。敵大将を瀕死の重傷を負わせた豊久は、被害者であるエルフたちに剣を渡し、「殺れ 殺るんだ 駄目だ殺るんだ 殺るのだ 殺らねばならぬのだ」「ここがどこでお前らが誰であろうと 敵はお前らが討たねばならぬ この子が応報せよと言っている!!」とエルフたちを焚きつけます。
エルフたちは、敵の総大将を殺すのですが、ここのシーンは圧倒的なカタルシスを感じます。つまり、この場面で読者の感情が1巻の中では一番大きく動くのです。ただし、それを可能にしているのは、先ほど触れた主人公島津豊久のキャラクターが際立っていること、具体的には、85ページの1コマめの信念の表出のリフレインで、読者が心を掴まれているからだといえます。

 

短編漫画は主人公の展示会

「短編漫画は主人公の展示会」というぐらいの認識を持った方がよいかもしれません。確かに、イントロで物語の5W1Hを説明し、きっかけとなる事件(多くは主人公にとって屈辱的な)が起こり、努力・鍛錬をして強くなった主人公が敵との接戦を経て勝利を収めるという型のお話は、漫画に限らずエンターテイメントストーリーの最も基本的な型です。しかし、これを32ページや40ページでやろうとすると、どうしても1つ1つのエピソードが浅く・短くなってしまいます。
現在の商業漫画の編集者さんの求めているものはとてもはっきりしていて、「魅力的なキャラクター」です。
もちろん、主人公が読者と一緒になって葛藤や苦難を乗り越えてキャラとして際立って行く正攻法のやり方もありますが、この「ドリフターズ」の島津豊久のように、キャラクターとしての信念がはっきりとあり、それを1話の中で3回ぐらいリフレインする、ブレない無骨なキャラクターを描くのもありではないでしょうか。
ちなみに、この主人公島津豊久は、また、サブの織田信長も奈須与一も最初から「強い」です。1巻の中では、特に成長もしていません。
それでも私たちは特に第5話90ページが終わる頃には主人公にがっつり感情移入をしています。そして、「最高に面白い!!」と激しく感情を揺さぶられます。
もちろん、作者の平野耕太さんのキャラクター演出力が抜群に高いのもありますが、主人公の信念が明確かつ物語の中でリフレインされ、最初から強い主人公たちが敵を圧倒的に打ち破るカタルシスがこの作品を面白くしています。

 

まとめとこの技術を短編漫画に活かすとすれば

まとめます。この作品が大変面白く、読者の感情を1巻以降も揺さぶり続けるのは、

  1. 主人公の信念がとても明快で、そのリフレインが利いている。
  2. 最初から強い主人公が圧倒的な強さを持って敵を打ち破って行く強さ。
  3. その2つを確かな演出力で大変濃く描いている。

からだと思います。
さて、これらの技術が短編漫画で応用可能かと言えば、充分可能だと思います。実際に、今まで論じて来た部分は90ページです。「ドリフターズ」ほど面白く、読者の感情を激しく動かす作品は僕たちにはまだ作れないでしょうが、40ページぐらいで上記の3つのポイントをしっかり押さえた作品が作れれば、みなさんはとても骨太で、わかりやすく面白い漫画が作れるのではないかと思います。

 

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キャラクターの魅力と、問題解決に向けた発想の飛躍が連動した時の気持ちよさについて 「GTO」を読む | 第二回

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photo by chris Vandenhende

GTO」で読者が一番始めに「感情を動かされる」シーン

今回題材として扱いたい「GTO」は、1997年2号から2002年9号まで週刊少年マガジンに掲載された藤沢とおるさんの代表作です。何度かテレビドラマ化され、その度に大きな話題になりましたし、続編も出ていますので、大ヒット作だと考えてよいと思います。私自身、コラムを書くに当たり久しぶりにこの作品を再読したのですが、あまりに面白く帰宅時間を忘れて読みふけってしまいました。

GTO(1)

GTO(1)

 

この作品、もちろん全ての面において藤沢とおる節がさく裂していて素晴らしいのですが、今回はコラムのテーマである「読者の感情が動くシーン」に注目して分析したいと思います。

そのような目でこの作品を読み返すと、おそらく、この作品で読者が一番始めに心を動かされるシーンは第6話「いち教師鬼塚」の主人公・鬼塚栄吉が水樹という生徒の家の壁をハンマーで壊すシーンです。

この一連のエピソードはコミックス1巻・第4話から展開されます。おさらいしましょう。

鬼塚が教育実習先で出会った水樹という生徒は、最初鬼塚をだまそうとしますが、次第に鬼塚の誠実で面倒見のよい人柄に魅かれて行きます。鬼塚に心を許しかけた水樹は、第5話で鬼塚に自分が抱える問題を泣きながら打ち明けます。
現在、水樹の両親はビジネスで成功し、大きくて立派な家に住んでいます。それは周りの人にとってはうらやましい事ですが、両親は顔を合わせば喧嘩ばかりしていて、水樹自身は家族間に生じた「冷たい壁」を感じていて幸せではありません。
以前、まだ両親がビジネスで成功する以前に暮らしていた六畳一間のアパートでは、父と母と娘の水樹は貧しいながらも温かい家庭を築いていました。その象徴として、月に一度、父の給料日に必ず食べたすき焼きが登場します。水樹は泣きながら、「あの頃に戻りたい」と鬼塚に伝えます。
その話を聞いた日の夜、上半身裸で手に大きなハンマーを持った鬼塚が水樹の家を「家庭訪問」します。その異形な風貌に動揺する両親を余所に、鬼塚は家に上がり込み、父親の書斎にたどり着きます。そして、「水樹、ここか?」と言い、いきなりハンマーで書斎の壁を「ブチ壊し」ます。家の壁に穴を空けた鬼塚は、大ゴマで大変かっこよく「こっから先は おまえしだいだぜ? 水樹」と決めゼリフを言います。

 

ポイントは発想の飛躍とショートカット

このシーンは、ある意味でとてもナンセンスなロジックが使われています。現実的に考えれば、鬼塚が水樹の家の壁を壊したところで、家族間の関係が修復出来る訳ではありません。事実、後日談として、水樹からの手紙で相変わらず両親は喧嘩ばかりしていると伝えられます。
しかし、鬼塚のこのセリフを聞いた水樹のうれしそうな表情を見た時、読者は水樹が抱える問題、「冷たい壁」が鬼塚のこの行動によって取り壊された事を知ります。
これは、いわゆる「ダブルミーニング」という手法で、漫画に限らず上手な脚本家が物語上の問題解決の時に使うものです。映画「ライフイズビューティフル」では、最後のシーンで、生き残った親子が言う「私は勝った」という言葉に二重の意味を持たせる事で、感動的な問題の解決を作っています。

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この手法はとても難しいので、毎回毎回問題の解決の時に使えるものではありません。
しかし、注目したいのは、「GTO」において藤沢とおるさんが、鬼塚が問題を解決する時にこのような発想の飛躍・論理の飛躍をこのエピソード以降も繰り返し使って行くという事です。そして、この手法によって読者の感情が動いているという事です。
具体名は出しませんが、ある「教師もの」の漫画では、主人公の教師が、ちょうどこの水樹の問題と似た問題を解決します。しかし、その解決の方法が稚拙なのと、解決までに200ページぐらいのページ数を使うので、物語はダレますし、この「GTO」のような爽快感と面白さはありません。このエピソードは短いページで、発想の飛躍があるから面白いのです。

 

この技法は短編漫画で再現可能か?

このコラムは、商業誌掲載に向けて短編漫画を描いている漫画家志望者のみなさんに向けて書いているので、我々は常に「長編漫画で感じる面白さが自分の短編漫画で再現可能か」という視座を持つ必要があります。
それでは、この技法は短編漫画でも再現可能かと言うと、充分再現可能です。そして、漫画家志望者でこういう発想の飛躍・論理の飛躍による問題解決の方法について、自覚的にやっている人はほとんどいません。ですので、もしもみなさんにそれが出来ると、他の漫画家志望者の作品に比べて圧倒的に「面白い」漫画が出来るでしょう。そして、それが成功した時、読者の感情は「大きく動く」と思います。これが、今回のこのコラムで私がみなさんと一番シェアしたい事です。

 

問題を解決する4つの方法

先ほど、このダブルミーニングの手法はとても難しいと申しました。実際に、「GTO」においてもこのようなダブルミーニングでの問題の解決の仕方はその後ありません。実際のエンターテイメント作品では、多くの場合次の4つの手法が取られます。

  1. 主人公が論理の飛躍や機転を利かせた行動で問題を解決する。
  2. 主人公が過去に行ってきたことが、現在に繋がって問題を解決する。
  3. 主人公が現在軸の中で合理的に問題を解決する。
  4. 奇策や「実は…」といったアイデアではなく、主人公が正々堂々正面突破をすることで問題が解決する。

基本的に、この4つの方法は上手に演出すると、どれでも読者の感情を動かせますが、特に投稿作などのように短いページで勝負しなければならない漫画は、1か2のアイデアで勝負すると効果的です。なので、みなさんが最初に書くプロットで、主人公が問題を解決しなければならない時、1か2の方法で解決できないかと思考する癖を付けると良いと思います。
2については、イントロ付近で主人公が何気なくやっていた事、何となく出したエピソードが実は後半に繋がっていて、という展開にするとよいと思います。そのような伏線は、後付けが可能です。どちらにしても、ポイントは大きく発想を飛躍させる事と、繰り返しになりますが、それを出来るだけ短いエピソードで読者に伝える事です。

 

主人公のキャラクター性と問題解決の方法は車の両輪

と、ここまでストーリに寄った話をして来ました。私としては、みなさんにこの方法でぜひプロットを作って欲しいのですが、描いているものがそれだけだと、おそらく持ち込み先で「アイデアは面白いね」「なかなか上手に物語をまとめているね」と言われて終わるような気がします。このような方法を取る場合、もう1つ絶対に欠かせないのが主人公のキャラクター性を際立たせるという事です。
今回取り上げている「GTO」は、主人公・鬼塚栄吉のキャラクター性がこれまでの漫画史の中でも最高レベルに際立っている漫画です。恐らく、このようなキャラクターは藤沢とおるさんにしか描けないのではないかと思います。

 

主人公・鬼塚栄吉の魅力

GTO」は、元暴走族の総長で金髪の教師・鬼塚栄吉が主人公です。この凡そ教師とは思えない破天荒なキャラクター性が、この作品のストーリーの面白さと自由度を保障します。

問題が起こっていない時の鬼塚は、女子高生のスカートの中を覗いたり、授業中に怪談をしたり、卑猥なコスプレをしたりと、いわゆるお茶目なエピソードを連発します。それはまるで、中学生のヤンチャな男の子のようです。
一方で、問題が起こった時の鬼塚は、正義感と男気に溢れ、行動力のあるかっこよい22歳の青年になり、文字通り身体を張って問題を解決します。
この鬼塚のキャラクターの二面性は、どちらに対しても振れ幅が非常に大きいので、読者はそのギャップに魅了されます。

 

GTO」の面白さの本質

私は、「GTO」という作品の面白さの本質は以下の3点にあるのではないかと思います。

  1. 主人公・鬼塚栄吉のキャラクターがとても魅力的に描かれている。
  2. 問題の起こり(鬼塚が首になりそうになる・生徒や他の教師の陰謀に巻き込まれるなどの引き)と主人公・鬼塚栄吉の問題の解決の方法が、読者にとってとても気持ちが良い形で行われる。
  3. 上記の2点が上手く連動して、決めシーンで読者の感情を動かす事に大変成功している。

創作の不思議なところですが、物語が上手く回っている時は、主人公の豊かなキャラクター性によってストーリー上の上手い問題の解決法やエピソードが生まれ、そしてそれがキャラクター性をより際立たせるという相乗効果が生まれます。この2つの要素は、ちょうど車の両輪のようなものです。
その事は、コミックス2巻以降の、「いち教師」鬼塚が、その後どうやって問題を解決し、生徒たちの心を掴んで行くかを見てみれば明らかでしょう。

 

まとめ

ここで言っている事が、難易度がとても高い事は重々承知しています。私も一応創作者の端くれですが、私も理論ではわかっても、上記のような事を活き活きと、自然にストーリーの中で行なう事はあまり出来ません。また、プロの漫画家でも、もちろん「GTO」レベルでこれをする事が出来る人はほんとうに稀です。
しかし、ほぼ間違いない事実として、みなさんの漫画の主人公のキャラクター性が魅力的で、スイッチのオン・オフのギャップのバランスが良く、そのキャラクター性の中で問題が上手に、読者の読みたかった形で解決出来た時、みなさんの漫画は読者の感情を大きく動かします。
結果的に、その作品は賞を取ったり、運よく掲載される事だってあるでしょう。
みなさんが、鬼塚級の際立ったキャラを作り、そのキャラクターに予想外の問題解決の方穂を取らせ、読者の感情を激しく揺さぶる作品を作れる事を願っています。

 

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読者の感情を動かす漫画を描こう | 第一回 

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はじめに

久しぶりに、コラムの連載をしようと思います。理由はいくつかあって、今年の3月に2冊めの本のお仕事が終わり、漫画技術・技法についての僕の中のストックが無くなった(全てを出し尽くしました!)ので、新しい何かを考えなければならないのもあるのですが、一番大きな理由は、僕が今まで論じて来たのは「手段」であり、「目的」の部分について考察が足りなかったと強く感じたからです。
僕はこのコラムを通して、私たちが漫画を描く「目的」と、そのための「手段」について明確に論じて行こうと思います。
このコラムを始めるにあたり、私に示唆を与えてくださった編集者の方々、漫画教育者の方々、具体的には舞草さん・猪飼さん・河邉さん、そして敬愛してやまないベルネ先生に感謝申し上げます。
なるべく週に一度アップしていきますので、よければお付き合いください。

キャラクターを動かす! マンガストーリー講座

キャラクターを動かす! マンガストーリー講座

 

 

編集者の方々がおっしゃる「漫画を作る目的」

この夏、何人かの経験豊かな商業漫画編集者の方々にお話を伺ったのですが、みなさんが共通しておっしゃる商業漫画を作る「目的」がありました。それは、「売れる漫画」を作る事です。身も蓋もないようですが、これは真理で、商業漫画・エンターテイメント漫画がビジネスとして成立している以上、編集者の方々は一冊でも多くのコミックスが売れる漫画を作りたいのであり、私たち創作者側は、そのために最善の努力をし続ける必要があります。

しかし、私たちは創作者であり、例えばこの2014年の売れている漫画の動向や、販促手段などについて全てを理解する事は出来ないし、する必要もないと思います。私たちは、信頼できると思った自分の担当編集者の方に、「自分はこれが面白い!」と思う最高のボールを力いっぱい投げ続けるのが最も重要な事だと思うのです。

 

「売れる漫画」をもう一段ブレイクダウンしてみると

このような訳で、私たちは編集者の方々と一緒になって、なるべく売れる漫画を作りたいのですが、そこに明確な根拠がある訳ではありません。上記の編集者の方々のお話をもっとよく聞いてみると、「売れる漫画」を作るために彼らがとても大事にしている共通の事がわかってきます。それは、「読者の感情を動かす漫画」を漫画家と一緒に作りたがっているという事です。

先ほど申したように、私たちはマーケッターではありませんから、「必ず売れる漫画」を作る事は専門ではなくても、「確実に読者の感情を動かす漫画」作りに関してはプロフェッショナルである必要があります。

改めて考えてみれば、「感動」という熟語は、「感情が動く」という意味です。恐らく、人間の本質的な感情の機能として、「感情が動く」というものがあります。それを、読み切りの24・32・40ページで、更に、コミックス1巻で私たちが出来ると、私たちの作品がまずは読者の印象に残る、そして「この作家は面白そうだからチェックしてみよう」という読者の行動に直結し、それが結果的に「お金を出してコミックスを買おう」という最終的な目的に繋がる、と、編集者の方々は経験則から感じていらっしゃるのではないかと思うのです。

 

「感情が動く」を分析してみる意味

最初にも申したように、私は優れた漫画作品の技法を分析・研究するあまり、漫画作りに関しての方法と手段をごっちゃにしてしまっていた反省があります。
ここでもう一度明確にしておきたいのは、私たちが商業漫画(同人誌の場合は別)を描く目的は、「読者の感情を動かす事」です。そして、そのための手段として、これからこのコラムで紹介していく技術や技法があるのだと思います。

ここ数ヶ月、私はこの目的と手段の視点だけで漫画を改めて読み返したり、新しく読んでみたりしました。その結果、この目的を達成するための手段は技法としていくつかに分類でき、その方法論も確立できるのではないかと感じました。
例えば「感動」。短いページで読者に感動を与える事は大変難しいですが、「ワンピース」の読み切りではそれが成功しています。例えば「胃が重たくなるような悲しさ」は、最近では「聲の形」がそれに成功しています。例えば「何故この作品はこんなにアホらしいのだろう」という愉快な感じは、漫☆画太郎さんが最も得意とするところです。

ONE PIECE 75 (ジャンプコミックス)   聲の形(1) (講談社コミックス)   世にも奇妙な漫・画太郎 1 (ヤングジャンプコミックス)

「感情が動く」と言うと、どうしても「読者を感動させなければならない」という使命感を感じがちですが、読んで愉快になるというのも立派な感情の誘導であり、また強いエロスだって読者の感情を動かす要素の1つです。このような人間の感情の動きのパターンについては、本編で1つ1つ分析して行きますが、私の現在の感覚だと、その数はかなり多いです。

 

「読者の感情を動かす」漫画を描こう

私の現在の感覚では、「面白い漫画を描こう」と思い漫画を描くよりも、「山場で読者の感情を動かそう」と思い漫画を描く方が、最終的に面白い漫画≒売れる漫画に繋がる可能性が高い気がします。
今まで「売れる漫画」と表現してきましたが、私たちはまずコミックスが出る前に、読み切りを描き、「アンケート結果で比較的良い結果」を出さなくてはなりませんから、そのための方法と考えても構いません。

アンケートで比較的良い結果を出すノウハウはあると思います。それは、その雑誌を読んだ読者の印象に残る漫画を描く事です。どうすると読者の印象に残るかと言うと、話は戻るのですが、結局、その作品を通して、「読者の感情を動かす」というところに行き着きます。

これまで、みなさんが描いてきた商業漫画・投稿作で、読者がハッと感情が動かされるようなコマ・シーンを明確な意図の基で描いて来た人はいるでしょうか? イントロ4ページめぐらいに、勝負ゴマを配置し、そこから逆算してイントロを構成した人はいるでしょうか? 「何となく描いていたら印象的なシーンが描けた」では、一発のラッキーパンチは当たるでしょうが、継続して良い作品を生産する事はできません。

 

現在、私は短編漫画は4拍子のリズムでハッとするコマ、雑誌をパラパラめくっていたサラリーマンが手を止めるコマを作品に入れて行けばよいのではないかと思っています。左ページで始まり、1、2・3ページがあり、4ページめのめくりで勝負ゴマを「ドン」というリズムです。

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そしてその4拍子が一連の流れとなり、32ページ漫画だったら28・29ページめぐらいに物語の最も高い山が来て、「読者の感情を動かす」という構成です。この辺りも、このコラムで解説して行ければと思います。

 

目的と手段について

と、解説をしていると、私の文章はどうしてもテクニカルな技法についての説明に終始してしまいます。しかし、漫画の本質は作者が読者に自分の中にある強烈な何かを「伝える事」です。なので、この一連のコラムは目的を達成するための手段に過ぎない事を、私も強く自覚しますし、みなさんにも自覚していただきたいです。

漫画家志望者の方によく、「描きたい題材がないのだけれど、どうしたらよいか」という相談を受けます。私はそのような人たちに、プロだって必死にそれを探しているのだから、目を皿のようにして探してください、と言います。漫画を量産していて、常に描きたいものが溢れている漫画家は稀です。多くの漫画家は、自分が熱中でき、かつ編集部で連載を勝ち取れるような企画を常に探しています。そして多くの漫画家さんがそれを見つけ、作品にします。

 

おわりに

調べてみると、今は9月11日の木曜日の20時45分で、こないだ抜いた親不知の跡が痛い以外は極めて順調に、僕の地球は回っています。今日は生徒さんがいないので、誰もいないシンとした教室でこの文章を打っています。漫画表現についてあれこれ考えながら、こうやって文章を打っていると、今が何時代であり、世の中で何が起こっていても関係ないという気持ちになってきます。

「三昧」という言葉がありますが、僕の経験だと、三昧の境地に至った人は強いです。
僕は、漫画表現を分析する側からあわよくば三昧の境地に入りたいです。
みなさんは表現者として、自分の伝えたいものや愛してやまないものを表現して漫画三昧の境地に至ってください。
僕の言葉がみなさんに伝わり、みなさんの漫画に関する何かしらの「感情を動かす」事ができれば、こんなにうれしい事はありません。
お互いに、がんばりましょう。

 

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