読者の感情を動かす 短編漫画のストーリー

短編漫画のストーリーで、読者の感情を自分の意図通りに動かせるようになるための、一見魔法のようだけれど、その実、わりと確実な方法を考察する時間

読者の感情を動かす漫画を描こう | 第一回 

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はじめに

久しぶりに、コラムの連載をしようと思います。理由はいくつかあって、今年の3月に2冊めの本のお仕事が終わり、漫画技術・技法についての僕の中のストックが無くなった(全てを出し尽くしました!)ので、新しい何かを考えなければならないのもあるのですが、一番大きな理由は、僕が今まで論じて来たのは「手段」であり、「目的」の部分について考察が足りなかったと強く感じたからです。
僕はこのコラムを通して、私たちが漫画を描く「目的」と、そのための「手段」について明確に論じて行こうと思います。
このコラムを始めるにあたり、私に示唆を与えてくださった編集者の方々、漫画教育者の方々、具体的には舞草さん・猪飼さん・河邉さん、そして敬愛してやまないベルネ先生に感謝申し上げます。
なるべく週に一度アップしていきますので、よければお付き合いください。

キャラクターを動かす! マンガストーリー講座

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編集者の方々がおっしゃる「漫画を作る目的」

この夏、何人かの経験豊かな商業漫画編集者の方々にお話を伺ったのですが、みなさんが共通しておっしゃる商業漫画を作る「目的」がありました。それは、「売れる漫画」を作る事です。身も蓋もないようですが、これは真理で、商業漫画・エンターテイメント漫画がビジネスとして成立している以上、編集者の方々は一冊でも多くのコミックスが売れる漫画を作りたいのであり、私たち創作者側は、そのために最善の努力をし続ける必要があります。

しかし、私たちは創作者であり、例えばこの2014年の売れている漫画の動向や、販促手段などについて全てを理解する事は出来ないし、する必要もないと思います。私たちは、信頼できると思った自分の担当編集者の方に、「自分はこれが面白い!」と思う最高のボールを力いっぱい投げ続けるのが最も重要な事だと思うのです。

 

「売れる漫画」をもう一段ブレイクダウンしてみると

このような訳で、私たちは編集者の方々と一緒になって、なるべく売れる漫画を作りたいのですが、そこに明確な根拠がある訳ではありません。上記の編集者の方々のお話をもっとよく聞いてみると、「売れる漫画」を作るために彼らがとても大事にしている共通の事がわかってきます。それは、「読者の感情を動かす漫画」を漫画家と一緒に作りたがっているという事です。

先ほど申したように、私たちはマーケッターではありませんから、「必ず売れる漫画」を作る事は専門ではなくても、「確実に読者の感情を動かす漫画」作りに関してはプロフェッショナルである必要があります。

改めて考えてみれば、「感動」という熟語は、「感情が動く」という意味です。恐らく、人間の本質的な感情の機能として、「感情が動く」というものがあります。それを、読み切りの24・32・40ページで、更に、コミックス1巻で私たちが出来ると、私たちの作品がまずは読者の印象に残る、そして「この作家は面白そうだからチェックしてみよう」という読者の行動に直結し、それが結果的に「お金を出してコミックスを買おう」という最終的な目的に繋がる、と、編集者の方々は経験則から感じていらっしゃるのではないかと思うのです。

 

「感情が動く」を分析してみる意味

最初にも申したように、私は優れた漫画作品の技法を分析・研究するあまり、漫画作りに関しての方法と手段をごっちゃにしてしまっていた反省があります。
ここでもう一度明確にしておきたいのは、私たちが商業漫画(同人誌の場合は別)を描く目的は、「読者の感情を動かす事」です。そして、そのための手段として、これからこのコラムで紹介していく技術や技法があるのだと思います。

ここ数ヶ月、私はこの目的と手段の視点だけで漫画を改めて読み返したり、新しく読んでみたりしました。その結果、この目的を達成するための手段は技法としていくつかに分類でき、その方法論も確立できるのではないかと感じました。
例えば「感動」。短いページで読者に感動を与える事は大変難しいですが、「ワンピース」の読み切りではそれが成功しています。例えば「胃が重たくなるような悲しさ」は、最近では「聲の形」がそれに成功しています。例えば「何故この作品はこんなにアホらしいのだろう」という愉快な感じは、漫☆画太郎さんが最も得意とするところです。

ONE PIECE 75 (ジャンプコミックス)   聲の形(1) (講談社コミックス)   世にも奇妙な漫・画太郎 1 (ヤングジャンプコミックス)

「感情が動く」と言うと、どうしても「読者を感動させなければならない」という使命感を感じがちですが、読んで愉快になるというのも立派な感情の誘導であり、また強いエロスだって読者の感情を動かす要素の1つです。このような人間の感情の動きのパターンについては、本編で1つ1つ分析して行きますが、私の現在の感覚だと、その数はかなり多いです。

 

「読者の感情を動かす」漫画を描こう

私の現在の感覚では、「面白い漫画を描こう」と思い漫画を描くよりも、「山場で読者の感情を動かそう」と思い漫画を描く方が、最終的に面白い漫画≒売れる漫画に繋がる可能性が高い気がします。
今まで「売れる漫画」と表現してきましたが、私たちはまずコミックスが出る前に、読み切りを描き、「アンケート結果で比較的良い結果」を出さなくてはなりませんから、そのための方法と考えても構いません。

アンケートで比較的良い結果を出すノウハウはあると思います。それは、その雑誌を読んだ読者の印象に残る漫画を描く事です。どうすると読者の印象に残るかと言うと、話は戻るのですが、結局、その作品を通して、「読者の感情を動かす」というところに行き着きます。

これまで、みなさんが描いてきた商業漫画・投稿作で、読者がハッと感情が動かされるようなコマ・シーンを明確な意図の基で描いて来た人はいるでしょうか? イントロ4ページめぐらいに、勝負ゴマを配置し、そこから逆算してイントロを構成した人はいるでしょうか? 「何となく描いていたら印象的なシーンが描けた」では、一発のラッキーパンチは当たるでしょうが、継続して良い作品を生産する事はできません。

 

現在、私は短編漫画は4拍子のリズムでハッとするコマ、雑誌をパラパラめくっていたサラリーマンが手を止めるコマを作品に入れて行けばよいのではないかと思っています。左ページで始まり、1、2・3ページがあり、4ページめのめくりで勝負ゴマを「ドン」というリズムです。

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そしてその4拍子が一連の流れとなり、32ページ漫画だったら28・29ページめぐらいに物語の最も高い山が来て、「読者の感情を動かす」という構成です。この辺りも、このコラムで解説して行ければと思います。

 

目的と手段について

と、解説をしていると、私の文章はどうしてもテクニカルな技法についての説明に終始してしまいます。しかし、漫画の本質は作者が読者に自分の中にある強烈な何かを「伝える事」です。なので、この一連のコラムは目的を達成するための手段に過ぎない事を、私も強く自覚しますし、みなさんにも自覚していただきたいです。

漫画家志望者の方によく、「描きたい題材がないのだけれど、どうしたらよいか」という相談を受けます。私はそのような人たちに、プロだって必死にそれを探しているのだから、目を皿のようにして探してください、と言います。漫画を量産していて、常に描きたいものが溢れている漫画家は稀です。多くの漫画家は、自分が熱中でき、かつ編集部で連載を勝ち取れるような企画を常に探しています。そして多くの漫画家さんがそれを見つけ、作品にします。

 

おわりに

調べてみると、今は9月11日の木曜日の20時45分で、こないだ抜いた親不知の跡が痛い以外は極めて順調に、僕の地球は回っています。今日は生徒さんがいないので、誰もいないシンとした教室でこの文章を打っています。漫画表現についてあれこれ考えながら、こうやって文章を打っていると、今が何時代であり、世の中で何が起こっていても関係ないという気持ちになってきます。

「三昧」という言葉がありますが、僕の経験だと、三昧の境地に至った人は強いです。
僕は、漫画表現を分析する側からあわよくば三昧の境地に入りたいです。
みなさんは表現者として、自分の伝えたいものや愛してやまないものを表現して漫画三昧の境地に至ってください。
僕の言葉がみなさんに伝わり、みなさんの漫画に関する何かしらの「感情を動かす」事ができれば、こんなにうれしい事はありません。
お互いに、がんばりましょう。

 

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